5Gまでの進化

高速大容量と言われるモバイル通信サービス5Gですが、4Gとの違いや、世代ごとの進化を説明します。

まず、携帯電話が日本で誕生したのは1980年代で、1985年にNTTがショルダーホンが発売されたのが民生用としての初の携帯電話になります。

最初の携帯電話を第1世代と呼びます。この頃は、まだデジタルでもなくアナログの音声波形をそのまま無線に変調して通話します。

携帯電話は複数の電話機が基地局と同時に通信できるように設計されていて、その多重アクセス方式が世代ごとに進化していきました。第1世代の多重アクセス方式は、FDMA (Frequency Division Multiple Access)です。

FDMA (Frequency Division Multiple Access)

これは、各ユーザ(電話機)ごとに、別々の周波数を割り当てて複数のユーザが同時に基地局と通信できるようにしています。上の図のひとつの山をキャリア(搬送波)と呼びます。隣り合うキャリアが干渉しないように、ガードバンドという所定の周波数幅を離します。

次に第2世代に行きます。1990年代です。第2世代で大きく変わったのは、アナログからデジタルに変わったことです。音声をデジタル信号に符号化し、圧縮し、効率よく伝送します。多重アクセス方式は、デジタルになったことによって、TDMA (Time Division Multiple Access)に進化します。

TDMA (Time Division Multiple Access)

TDMAは、同じ周波数でも時間を分けて複数のユーザが使えるようなアクセス方式です。デジタル化したことによって、ある時間の信号をそれよりも短い時間で送れるようになったため可能になりました。アップリンクの通信では微小なタイミングのズレが生じるため、各タイムスロットの境界にはガード時間が設けられています。ですが、FDMAのガードバンドより無線リソースの無駄は少ないです。

次に第3世代に行きます。2000年代です。第3世代の多重アクセス方式は、CDMA (Code Division Multiple Access) に進化します。

CDMA (Code Division Multiple Access)

CDMAは、スペクトル拡散という技術を使い、ユーザごとに割り当てた拡散符号でスペクトルを拡散します。この拡散符号が秀逸で、同じ拡散符号は当然相関値が高くなりますが、他の拡散符号との相関値はほぼゼロになるという特殊な符号を用います。これにより、複数の拡散符号で拡散した信号を混ぜても、ある拡散符号で逆拡散すると、その符号で拡散された信号だけが際立って復調できるというものです。

ですので、同じ周波数、同じ時間スロットを使いながら、複数のユーザの信号を重畳できるため効率が良いです。またノイズも拡散符号との相関が低いため、ノイズに対しても強くなります。

次に第4世代に行きます。2010年代です。第4世代の多重アクセス方式は、OFDMA (Orthogonal Frequency Multiple Access) です。第1世代のFDMAの前にOが付いただけですが、これこそが今の5Gでも使われている最終形態とも言えます。

OFDMA (Orthogonal Frequency Division Multiple Access)

OFDMAは、直交周波数という特殊な条件を満たす周波数のキャリア(搬送波)を密に並べて伝送する方式です。隣合う周波数と重なっているように見えますが、直交周波数同士は、自身の搬送波の中心周波数が、他の周波数のゼロ点とちょうど重なるため干渉しないのです。そのため、周波数を密に並べられるため伝送効率が圧倒的に良いです。

この周波数セットを、各ユーザに振り分けて複数のユーザが同時に通信できるようにしています。キャリア同士が干渉しないため、もちろんユーザ同士も干渉しません。アップリンクのタイミングずれや、反射波の影響を軽減するためにTDMAと同様にガード時間が設けられています。それでも最も効率が良いです。

それでは、第5世代に行きます。2020年代です。ここでは第4世代と同じOFDMAが用いられます。では、5Gは、4Gと何が違うのか説明していきたいと思います。

4Gと5Gの違い

5Gの特徴として、高速大容量、低遅延、同時多数接続があります。これらを可能にする主要な要素として、「新しい周波数帯の利用」、「モバイルエッジコンピューティング」、「ネットワークスライシング」があります。この中で一番大きいのは、やはりサブ6やミリ波などの「新しい周波数帯の利用」と、それに伴うマイクロセル化だと思います。

5Gで定義されている周波数帯は2種類あり、ひとつは、サブ6の中の2.5GHz〜4.7GHz帯、もうひとつはミリ波と呼ばれる24GHz〜50GHz帯です。

周波数が低いほど遠くまで電波が届くため、低い周波数帯ほど貴重であり、いろんな無線通信に割り当てられていて埋め尽くされています。ですが、高い周波数帯はまだ空いているし幅広く取れます。無線通信の速度は、周波数の幅に比例するため、幅広く周波数帯を使えることで、高速大容量通信が可能になります。

ですが、電波が遠くまで届かないため長距離の通信ができません。そのために、基地局を小さいエリア単位に数多く設置するマイクロセル化が必須になってきます。

マイクロセル化

左側がこれまでのセル設計、右側がマイクロセル化したセル設計です。セルとはひとつの基地局がカバーするエリアです。隣り合うセルと同じ周波数を使ってしまうと干渉してしまうため、周波数をいくつかのグループに分け、上図のように同じ周波数を使うセルが重ならないように設計しています。

このセルを小さくして設計したのが右側のマイクロセル化です。1つのセルでカバーするエリアが小さくなっています。すると、例えば今まで1つのセルで20人が同時接続していて、面積が1/10になったとすると、1つのセルで2人の同時接続をカバーすれば良くなります。つまり1つのセルの周波数を2人で使いたい放題です。セルの周波数は繰り返し配置して使えるため、この方が効率が良くなります。これでさらに高速大容量通信が可能になります。

また、短距離の通信しかしないことで、反射波の遅延などの影響も小さくなるため、OFDMのガード時間も短くでき、OFDMのシンボル長も短くできます。これが低遅延通信にもつながります。

理想はマイクロセルで全エリアをカバーできれば良いのですが、そこまで基地局を細かく設置することはできないため、5Gで部分的に高速大容量通信を提供し、4Gで全体のエリアをカバーするという運用がされています。

6Gとは?

まだ5Gが始まったばかりなのに、すでに6Gの話などもでています。6Gの仕様はまだ決まっていませんが、技術的な進化としてひとつあるのが、NTTが研究しているOAM(Orbital Angular Momentum)という変調方式です。電波は、電界と磁界が交互に作用して波を形成していますが、この電界と磁界の位相差があると電界や磁界が進行方向に対して回転しながら作用します。光の円偏光と同じような原理です。この回転数が異なる電波は重ね合わせても分離できる特徴(OAM多重の原理)をうまく使って、MIMOの空間多重数を増やすという新しい技術です。イメージ図をNTTのニュースリリースから引用します。

OAM多重電装技術(NTTのニュースリリースより引用)
OAM多重伝送技術(NTTのニュースリリースより引用)

分離できるというのがすごいです。さらに通信容量が増加しそうです。6Gがどのような世界になるのか楽しみです。